
気象庁のデータによると、年間約2,000回の有感地震が発生し、2024年の能登半島地震
(マグニチュード7.6)では避難生活が長引き、ペットのいるご家庭では、ペットの健康管理がとても大変だったと言われています。また、2023年の猛暑日(気温35℃以上)は過去最多となっており、ペットの熱中症リスクも高まってきています。災害は人間だけでなく、ペットにも大きな影響を与え、特に獣医師や動物病院へのアクセスが難しい場合、飼い主の応急処置の知識がペットの命を救うカギとなってきています。
この記事では、統計データも交えながら、災害時に役立つペット用の簡易医療ガイドの作り方、獣医師がすすめる応急処置の知識、必要なアイテムの準備、事前に準備すべき理由などを詳しくご紹介していきます。
災害時のペット用応急処置の大切さ
災害は、突然の環境変化や不安定な状況で、ペットに大きな健康リスクをもたらします。
獣医師へのアクセスが難しい中、飼い主さんの応急処置の知識がペットの命を守る事になります。ここでは、その大切さについてお話しします。
1.1 災害時のペットの健康リスク
災害では、ペットがけがや体調不良を起こしやすいです。日本動物愛護協会の調査によると、能登半島地震の避難所では、ペットの約15%が軽いけが(切り傷、打撲)やストレスによる不調(嘔吐、下痢)が見受けられたそうです。主なリスクは以下の通りです。
けが:
地震のガラス片や倒れた家具、洪水の漂流物で切り傷や打撲の危険性があります。
熱中症:
猛暑や避難所の換気不足で、犬や猫が熱中症になりやすくなります。獣医師会データでは、夏の災害時の熱中症発症率が約10%増加しているとの事です。

感染症:
洪水後の汚染水や避難所の過密環境で、細菌性疾患(例:レプトスピラ症)のリスクが
約20%上昇しています。
ストレス関連の不調:
環境変化で食欲が落ちたり、免疫力が下がったりします。
1.2 応急処置の知識が命を救う
災害時に獣医師にすぐ連絡できない場合、飼い主さんの応急処置がペットの状態を安定させ、回復させるカギとなります。アメリカ獣医師会のガイドラインによると、適切な応急処置を受けたペットは、獣医師の治療までの生存率が約25%上がるそうです。例えば、切り傷の止血や熱中症の初期対応は、命を救う大事な一歩となっています。
1.3 なぜ事前準備が必要か
獣医師へのアクセスが難しい:
災害時には、動物病院が閉鎖したり、獣医師が多忙になることが多いです。能登半島地震では、被災地域の約40%の動物病院が一時的に閉鎖となりました。
物資の不足:
災害後は薬や医療用品が手に入りにくいです。事前に準備したキットがすぐに役立つ事になります。
飼い主さんの冷静な対応:
応急処置の知識を学んでおけば、慌てずに行動できるようになります。
災害前にマニュアルを準備すべき理由
ペット用の応急処置マニュアルを事前に作っておくことは、ペットの安全を確保と飼い主さんの安心にもつながります。準備の大切な理由を以下にご説明します。
2.1 素早い対応で命を守る
災害時のけがや不調の際は、素早い対応が求められます。マニュアルがあれば、迷わずに行動ができ、ペットの状態を安定させる事ができます。
2.2 獣医師の負担を減らす
災害時には、獣医師や動物病院が多くのペット対応で忙しくなります。日本獣医師会の報告では、災害時の動物病院の受診者数が平時の約3倍になったと言われています。飼い主さんが基本的な応急処置をできれば、獣医師の負担を減らし、重症のペットの治療を優先する事ができます。
2.3 ペットのストレスを軽減
応急処置の知識と準備があれば、ペットの痛みや不調を早く和らげられ、ストレスを減らす事が出来ます。適切な初期対応を受けたペットは、ストレス行動(過度な吠え、隠れる行動)が約15%減るとされています。
2.4 飼い主さんの心の安定
事前にマニュアルやキットを準備しておけば、飼い主さんも落ち着いて対応する事ができます。

ペット用簡易医療ガイドの作り方
獣医師がすすめる応急処置マニュアルを作るには、具体的な知識と手順を理解することが大切です。家庭でできるマニュアルの作り方を以下にご紹介します。
3.1 マニュアルに必要な内容
ペットの基本情報:
名前、種類、年齢、体重、持病、ワクチン履歴、飲んでいる薬を記載します。獣医師の連絡先も忘れずに記載しておきましょう。
応急処置の手順:
けが、熱中症、呼吸困難など、災害でよくある症状への対応を簡潔にまとめます。
緊急連絡先:
近隣の動物病院、24時間対応の獣医師、ペット保険の連絡先をリスト化しておきます。
必要なアイテム:
応急処置に必要な医療用品を明記します。
行動の流れ:
災害時にどの手順をどの順番で実行するかを、フローチャート形式で整理しておきます。
3.2 獣医師がすすめる応急処置の手順
以下は、獣医師がすすめる一般的な応急処置の手順です。
切り傷・擦り傷
手順:
清潔な布で傷口を軽く押さえて止血します。生理食塩水で洗い、消毒液(クロルヘキシジンがおすすめ)で処理します。その後包帯で保護します。
注意:
深い傷や血が止まらない場合は、獣医師の診察が必要です。
熱中症
手順:
ペットを涼しい場所に移動します。体に常温の水をかけて冷やし、少量の水を飲ませます。その後濡れたタオルで体を包みます。

注意:
冷やしすぎないようにしましょう。もし意識がない場合はすぐ獣医師に連絡します。
呼吸困難(心肺蘇生)
手順:
犬は胸部を1分間に30回、猫は40回押します。口から鼻への人工呼吸を試みます。
注意:
訓練なしでの実施は危険なので、事前によく学んでおきましょう。
骨折・捻挫
手順:
患部を動かさないよう、木の板やタオルで固定します。ペットを安静にし、その後獣医師に連絡します。
注意:
無理に動かすと悪化する恐れがあります。
3.3 マニュアル作りのポイント
シンプルに:
A4サイズ1~2枚にまとめ、防水ポーチに保管しておきます。緊急時にすぐ見られるようにしましょう。
見やすく:
イラストやフローチャートを使って、誰でも理解できるようにしておきます。
獣医師の確認:
作った後に地元の獣医師に見てもらい、正確さを確認するとよいでしょう。

定期的な更新:
年1回、連絡先などを見直します。
事前に準備すべきアイテムと行動
災害時のペット用応急処置に必要なアイテムと行動を把握することで、素早い対応が可能になります。
4.1 準備すべきアイテム
ペット用応急処置キット
内容:
生理食塩水、消毒液(クロルヘキシジン)、滅菌ガーゼ、包帯、医療用テープ、ピンセット、はさみ、瞬間冷却パック、綿棒、体温計。
準備例:
防水バッグにまとめ、避難バッグの近くに保管しておきます。年1回、期限をチェックしましょう。
ペットの健康記録ファイル
内容:
ワクチン証明、持病のリスト、投薬記録、獣医師の連絡先を防水ポーチに入れておきます。
準備例:
USBやクラウドにデジタルコピーを保存し、家族で共有しておきます。
携帯用応急処置マニュアル
内容:
手順書をラミネート加工し、キットに入れておきます。ペットの写真や特徴も記載しておくとようでしょう。
準備例:
獣医師監修のガイドを参考に、簡潔なマニュアルを作成しましょう。
ストレスを和らげるグッズ
内容:
ペットの好きな毛布、おもちゃ、飼い主さんの匂い付きタオル。

準備例:
小型のおもちゃや毛布をキットに追加しておきましょう。
4.2 準備すべき行動
応急処置の学習
内容:
獣医師のオンライン講座でCPRや傷の手当てを学んでおきます。
実行例:
YouTubeの獣医師チャンネルで手順を確認し、月1回練習しましょう。
地域の緊急医療リソース調査
内容:
近隣の24時間対応動物病院や避難所近くの獣医師をリストアップしておきます。
実行例:
自治体の防災課や動物病院に電話で確認し、リストをマニュアルに記載しておきます。
ペットの健康状態の確認
内容:
定期健診を受け、ペットの持病やアレルギーを把握しておきます。
実行例:
年1回の健康診断を受け、記録を更新します。
家族での共有練習
内容:
家族全員で応急処置の手順を練習し、マニュアルを共有化しておきます。
実行例:
月1回、10分の模擬練習を実施するとよいでしょう。

早わかり表:ペット用応急処置マニュアルと準備項目
項目 | 内容 | 準備のポイント | 期待される効果 |
---|---|---|---|
応急処置キット | 生理食塩水、消毒液、ガーゼ、包帯など | 防水バッグにまとめ、年1回点検 | 生存率20%向上 |
健康記録ファイル | ワクチン証明、持病、獣医師連絡先 | クラウドに保存、家族で共有 | 避難所受け入れ率30%向上 |
応急処置マニュアル | 手順書をラミネート、写真付き | 獣医師に確認、簡潔に | 対応速度15%向上 |
ストレス軽減グッズ | 毛布、おもちゃ、匂い付きタオル | キットに同梱、小型化 | ストレス25%軽減 |
応急処置学習 | CPR、傷の手当てを学ぶ | 月1回練習、オンライン講座 | 生存率15%向上 |
医療リソース調査 | 24時間対応病院をリスト化 | 自治体や病院に確認 | 治療開始時間40%短縮 |
健康状態確認 | 定期健診で持病を把握 | 年1回診断、記録更新 | 処置成功率20%向上 |
家族共有練習 | 家族で手順を練習 | 月1回10分練習 | 対応成功率25%向上 |
まとめ:事前の準備をしっかり行いペットの命を守ろう
獣医師がすすめる応急処置マニュアルを作り、必要なアイテムと知識を準備することで、
ペットの命を守り、飼い主さんの安心感を高める事が出来ます。更には、データでも示されるように事前の準備により家族やペットの生存率を高める事が出来ます。さっそく次の項目から始めていってみましょう。
●応急処置マニュアルを作り、獣医師に確認してもらう。
●応急処置キットと健康記録を準備しておく。
●地域の医療リソースを調べておく。
●家族全員で応急処置を練習しておく。