
地震や台風、火災などの緊急事態では、ペットの命を守るために素早い対応が求められます。ペットがショック状態に陥ったり、呼吸や心拍が止まったりした場合、飼い主さんが心肺蘇生法(CPR)を正しく行えれば、命を救える可能性があります。
この記事では、ペットの心肺蘇生法の具体的な手順、事前にできる練習のコツ、そして災害時のペット保護に役立つ全体的な防災対策をわかりやすくご紹介していきます。
災害時の心肺蘇生法:なぜ大切なのか
災害時には、ペットがパニックや怪我、煙を吸ったり水をかぶったりすることで、命の危機に直面することがあります。心肺蘇生法は、呼吸や心拍が止まったペットを救うための緊急処置になります。獣医師にすぐ相談できない状況でも、飼い主さんが適切に対応できれば、ペットの命をつなげられるかもしれません。
1-1. 災害時のリスクと心肺蘇生の役割
火災の煙、津波での溺水、落下物による怪我などが、ペットの心肺停止を引き起こす可能性があります。素早い対応が命を救う鍵になるので、飼い主さんの知識と準備がとても重要になってきます。
1-2. ペットの種類ごとの違い
犬、猫、鳥、小動物など、ペットの種類によって心肺蘇生のやり方は異なります。たとえば、犬は胸をしっかり押すのが中心ですが、鳥は小さな体に合わせて優しく処置する必要があります。ペットの特徴を理解しておくと、効果的な救命ができます。
1-3. 飼い主さんの冷静さを支える
災害時は飼い主さんも慌ててしまいがちです。心肺蘇生のやり方を知り、練習しておけば、緊急時でも落ち着いて対応できるようになります。
1-4. 獣医師との連携の大切さ
心肺蘇生は一時的な処置なので、対応後はすぐに獣医師の診察が必要になります。災害で獣医師に連絡しにくい場合でも、事前に連絡先を記録しておけば、救命後の対応がスムーズになります。
1-5. ペットの健康状態を把握
ペットの健康状態(持病や体質)を知っておくことも大切です。心肺蘇生が必要になるリスクを事前に把握しておくことで、災害時でも焦らずに対応が出来ます。
ペットの心肺蘇生法:基本の手順
ペットの心肺蘇生は、呼吸や心拍の確認、気道の確保、胸を押す処置、人工呼吸を組み合わせた手順で行います。以下に、犬と猫を例にした基本的なやり方をご紹介します。
2-1. ペットの状態を確認
意識のチェック:
ペットを軽く揺すったり、名前を呼んだりして反応を見ます。反応がない場合、心肺停止の可能性があります。
呼吸のチェック:
胸の動きや鼻からの空気を10秒間観察します。呼吸がない場合は、すぐに心肺蘇生を始めます。

脈拍のチェック:
犬は太ももの内側(大腿動脈)、猫は胸の左側で脈を確認します。脈が感じられない場合は、すぐに処置に進みます。
2-2. 気道を確保
口内の確認:
口や喉に食べ物や泥などの異物がないかチェックし、指や布でそっと取り除きます。
頭の位置を整える:
ペットの頭をまっすぐ伸ばし、気道を確保します。首を無理に曲げないよう気をつけましょう。
2-3. 胸を押す(胸部圧迫)
犬の場合:
中型〜大型犬は横に寝かせ、胸の広い部分(肋骨の中央)を両手で押します。1秒に2回のペースで、胸が3〜4cm沈む強さで30回行います。小型犬は片手で同様に押します。
猫の場合:
横に寝かせ、胸の中央を親指と人差し指で軽く押します。1秒に2〜3回のペースで、胸が1〜2cm沈む程度で30回行います。
注意点:
力を入れすぎると骨が折れるリスクがあるので、ペットのサイズに合わせた力加減を心がけましょう。
2-4. 人工呼吸を行う
犬の場合:
鼻と口を閉じ、飼い主さんの口で鼻を覆って軽く息を吹き込みます。胸が少し膨らむ程度で、1回1秒、2回行います。
猫の場合:
同様に鼻を覆い、軽く息を吹き込みます。猫は肺が小さいので、少量の空気で十分です。
サイクル:
胸を押す30回と人工呼吸2回のセットを2分間繰り返し、反応を確認します。
2-5. 獣医師への連絡
心肺蘇生で反応が見られたら、すぐに獣医師に連絡し、指示を仰ぎます。反応がない場合は、5サイクル(約10分)試み、できる限り獣医師の診察につなげます。

心肺蘇生の練習のコツ:事前にできる準備
心肺蘇生は緊急時の技術なので、事前に練習しておくことが大切です。以下に、練習のコツと準備のポイントをご紹介します。
3-1. ペット用練習キットの活用
ペット用の心肺蘇生練習キット(犬や猫のモデル人形)は、胸を押す感覚や人工呼吸のやり方を学ぶのに役立ちます。動物病院やペットショップで購入し、家族みんなで練習してみましょう。
3-2. 獣医師のワークショップに参加
地域の動物病院やペット関連団体が開催する心肺蘇生のワークショップに参加すると、専門家の指導で実際の動きを学ぶことができます。また、ペットの体型ごとの正しいやり方を身につけられます。
3-3. 動画やガイドを活用
獣医師監修の心肺蘇生の動画やガイドブックを見て、基本の手順を何度も確認します。家族で動画を見ながらシミュレーションし、役割を分担しておくと安心です。
3-4. ペットとの慣らし練習
ペットが体を触られることに慣れるよう、普段から胸や口元を優しく触る練習をします。
災害時のパニック状態でも落ち着いて処置を受けられるよう、信頼関係を築いておきましょう。
3-5. シナリオごとの練習
火災(煙吸入)、津波(溺水)、土砂災害(怪我)など、災害ごとのシナリオを想定し、
心肺蘇生が必要な場面をシミュレーションしてみます。

災害ごとの心肺蘇生のポイント
災害の種類によって、ペットが心肺停止になる原因や対応が異なります。以下に、火災、津波、土砂災害ごとのポイントをご紹介します。
4-1. 火災:煙吸入への対応
原因:
火災では煙を吸うことで酸素不足になり、心肺停止になるリスクがあります。
対応:
避難後、まず新鮮な空気を吸わせ、気道を確保します。その後胸を押して人工呼吸を行います。
準備:
防煙マスクや濡らして使えるタオルを用意しておきます。心肺蘇生後に、獣医師に煙の影響具合を相談するようにしましょう。
4-2. 津波:溺水への対応
原因:
津波で水をかぶり、呼吸が止まるリスクがあります。
対応:
安全な場所に移動し、口内の水や異物を除去します。気道を確保後、胸を押して人工呼吸を行います。
準備:
防水バッグに心肺蘇生ガイドを入れ、避難時に持ち出せるようにしておきます。溺水後の体温低下に備え、毛布も準備しておきます。

4-3. 土砂災害:怪我やショックへの対応
原因:
土砂や落下物による怪我やショックが心肺停止を引き起こす可能性があります。
対応:
怪我の有無を確認し、出血がひどい場合は圧迫止血後、心肺蘇生を実施します。ショック状態のペットは静かに寝かせて処置をしましょう。
準備:
応急処置キット(包帯、消毒液)を避難バッグに入れておき、怪我の処置と心肺蘇生を組み合わせた対応を練習しておきます。
ペットの総合防災対策:心肺蘇生と連携した準備
心肺蘇生の知識を活かし、ペットの安全を守るための全体的な防災対策をご紹介します。
5-1. 緊急キットの準備
心肺蘇生に必要なグッズ(消毒液、包帯、ピンセット、毛布)を緊急キットにまとめ、避難バッグに常備しておきます。キットには獣医師の連絡先や心肺蘇生の手順をまとめたメモを入れておくとよいでしょう。

5-2. ペットの健康管理
定期的に健康診断を受け、持病やアレルギーを記録しておきます。心肺蘇生が必要になるリスク(心臓疾患など)を把握し、獣医師に相談しておきましょう。
5-3. 避難訓練の実施
心肺蘇生を組み込んだ避難訓練を家族で実施します。ペットをキャリーに入れる練習や、
災害ごとのシナリオ(火災、津波、土砂災害)を想定した心肺蘇生のシミュレーションを行います。
5-4. 地域情報の収集
ハザードマップを活用し、火災、津波、土砂災害のリスクを把握しておきます。ペット同伴可能な避難所や近隣の獣医師の連絡先をリストにまとめておくと安心です。
5-5. ペットの身元確認
マイクロチップや首輪に連絡先を記載し、災害時にペットがはぐれても見つけやすくしておきます。心肺蘇生後の獣医師連絡に備え、身元情報を防水ケースに保管しておきましょう。
5-6. 災害後の健康観察
心肺蘇生後に、ペットの呼吸や行動を観察します。異常があれば獣医師に連絡し、ストレスや後遺症に注意しましょう。
5-7. 家族の役割分担
災害時の役割を家族で決めておきます。心肺蘇生担当、キャリー運搬、獣医師連絡など、シナリオごとに役割をはっきりさせ、スムーズに対応出来るようにしておきましょう。
5-8. 避難所のルール確認
ペット同伴可能な避難所のルールを確認しておきます。
5-9. ペットの環境調整
避難所や仮住まいでは、ペットが落ち着ける環境を作っておきます。火災後の騒音、津波後の湿気、土砂災害後の泥に備え、毛布や簡易ベッドなどを用意しておくとよいでしょう。

5-10. 近隣との連携
近隣住民とペットの防災情報を共有し、緊急時に助け合えるようにしておきましょう。火災や津波で避難が難しい場合、近隣にペットの預かりを依頼できるよう信頼関係を築いておきましょう。
早わかり表:心肺蘇生のポイント
心肺蘇生の主な手順と災害ごとのポイントを表にまとめてみました。
項目 | 内容 | 効果 | ペット向けポイント |
---|---|---|---|
状態確認 | 意識、呼吸、脈拍をチェック | 心肺停止の早期発見 | 素早い判断で処置開始 |
胸部圧迫 | サイズに応じた圧迫 | 心臓の機能を補助 | ペットの体型に合わせた力加減 |
人工呼吸 | 鼻から軽く息を吹き込む | 呼吸をサポート | 小型ペットは少量の空気で対応 |
火災対応 | 防煙マスク、気道確保 | 煙吸入からの回復 | 煙から守り素早い心肺蘇生 |
津波対応 | 異物除去、体温管理 | 溺水からの回復 | 防水バッグと毛布で準備 |
土砂災害対応 | 怪我確認、止血後CPR | ショックや怪我からの回復 | 応急処置キットで対応 |
まとめ:心肺蘇生法でペットの命を守ろう
ペットの心肺蘇生法は、災害時の緊急事態において、ペットの命を救う大切な手段になります。以下のポイントを押さえて、さっそく準備を始めてみましょう。
心肺蘇生の準備:
基本の手順を学び、ペットの種類に合った処置を理解しておく。
練習のポイント:
練習キットやワークショップで技術を磨き、獣医師とも連携できるようにしておく。